完全正則空間・一様構造・距離化:自己完結的・網羅的詳説
1. 分離公理:正規性と完全正則性の定義
位相空間 $(X, \tau)$ の分離公理は、空間内の「対象(点や集合)」をどれだけ解析的な道具(開集合や連続関数)で区別できるかを規定する。以下ではすべての空間は $T_1$ であると仮定する。
定義 1.1(正規空間)
$X$ が正規 (Normal, $T_4$) であるとは、互いに素な任意の閉集合 $A, B \subseteq X$ に対して、ある開集合 $U, V \subseteq X$ が存在して、
$$ A \subseteq U, \quad B \subseteq V, \quad U \cap V = \emptyset $$
を満たすことをいう。
定義 1.2(完全正則空間)
$X$ が完全正則 (Completely Regular, $T_{3\frac{1}{2}}$) であるとは、任意の閉集合 $F \subseteq X$ と点 $x \in X \setminus F$ に対して、連続関数 $f: X \to [0, 1]$ が存在して、
$$ f(x) = 0 \quad \text{かつ} \quad f(F) = \{1\} $$
を満たすことをいう。
2. ウリゾーンの補題:正規空間における関数の存在証明
正規性の概念は「開集合による分離」であるが、これは「連続関数による分離」と等価である。これを示すのがウリゾーンの補題である。この証明は、可算個の開集合の鎖を稠密に埋め込むという独創的な手法をとる。
補題 2.1(Urysohn's Lemma)
正規空間 $X$ において、互いに素な閉集合 $A, B \subseteq X$ に対し、連続関数 $f: X \to [0, 1]$ が存在して $f(A)=\{0\}$ かつ $f(B)=\{1\}$ を満たす。
証明
$[0, 1]$ 内の二進有理数の集合 $D = \{ k/2^n \mid n \in \mathbb{N}, 0 \le k \le 2^n \}$ を考える。$D$ は $[0, 1]$ で稠密である。
ステップ 1:開集合族 $\{U_r\}_{r \in D}$ の構成
$r \in D$ に対し、開集合 $U_r$ を「$r < s \implies \overline{U_r} \subseteq U_s$」となるように数学的帰納法で構成する。
1. まず $U_1 = X \setminus B$ とおく。$A \cap B = \emptyset$ より $A \subseteq U_1$ である。
2. 正規性により、閉集合 $A$ と開集合 $U_1$ に対し、$A \subseteq U_0 \subseteq \overline{U_0} \subseteq U_1$ を満たす開集合 $U_0$ が存在する。
3. 次に $r = 1/2$ に対し、$\overline{U_0} \subseteq U_1$ であるから、正規性より $\overline{U_0} \subseteq U_{1/2} \subseteq \overline{U_{1/2}} \subseteq U_1$ となる $U_{1/2}$ が存在する。
4. 以下、分母が $2^n$ の二進有理数に対して順次 $U_r$ を決定していく。既に分母が $2^{n-1}$ 以下のすべての $r$ に対して $U_r$ が定義されており、条件を満たしているとする。$r = (2k+1)/2^n$ に対し、$s = 2k/2^n$ と $t = (2k+2)/2^n$ は分母が $2^{n-1}$ 以下であり、$\overline{U_s} \subseteq U_t$ を満たしている。正規性により $\overline{U_s} \subseteq U_r \subseteq \overline{U_r} \subseteq U_t$ を満たす $U_r$ をとる。これにより、すべての $r \in D$ に対して $U_r$ が定まる。
ステップ 2:関数の定義
$f: X \to [0, 1]$ を次のように定義する。
$$ f(x) = \begin{cases} \inf \{ r \in D \mid x \in U_r \} & (x \in U_1) \\ 1 & (x \notin U_1) \end{cases} $$
明らかに、$x \in A$ ならば $x \in U_0$ なので $f(x)=0$ である。また $x \in B$ ならば $x \notin U_1$ なので $f(x)=1$ である。
ステップ 3:連続性の証明
$f$ の連続性を示すには、$f^{-1}([0, a))$ と $f^{-1}((b, 1])$ がすべての $a, b \in (0, 1)$ に対して開集合であることを示せばよい。
1. $x \in f^{-1}([0, a)) \iff f(x) < a \iff \exists r \in D, r < a, x \in U_r$。
したがって $f^{-1}([0, a)) = \bigcup_{r < a} U_r$ である。これは開集合の和集合なので開集合である。
2. $x \in f^{-1}((b, 1]) \iff f(x) > b$。
ここで、$f(x) > b \iff \exists s \in D, s > b, x \notin \overline{U_s}$ を示す。
(i) ある $s > b$ で $x \notin \overline{U_s}$ ならば、任意の $r \in D$ で $r \le s$ ならば $x \notin U_r$。よって $\inf \{r \mid x \in U_r\} \ge s > b$。
(ii) 逆に $f(x) > b$ ならば、稠密性より $b < s < s' < f(x)$ なる $s, s' \in D$ がとれる。$f(x) > s'$ より $x \notin U_{s'}$。$\overline{U_s} \subseteq U_{s'}$ なので $x \notin \overline{U_s}$。
ゆえに $f^{-1}((b, 1]) = \bigcup_{s > b} (X \setminus \overline{U_s})$ である。これは閉集合の補集合の和集合なので開集合である。
以上より $f$ は連続である。
■
3. 局所コンパクト空間の完全正則性
局所コンパクトHausdorff空間は必ず完全正則になる。これは一点コンパクト化を用いた簡潔な証明が可能である。
定理 3.1
局所コンパクトHausdorff空間 $X$ は完全正則である。
証明
1. $X$ に無限遠点 $\infty$ を加えた集合 $X^* = X \cup \{\infty\}$ に一点コンパクト化の位相を導入する。
2. $X$ が局所コンパクトHausdorffであれば、$X^*$ はコンパクトHausdorff空間になる。
3. 事実:コンパクトHausdorff空間は正規である。
(証明の概略:Hausdorff性により点と点を分離でき、コンパクト性により点と閉集合の分離、閉集合と閉集合の分離へと有限被覆の議論で持ち上げられる。)
4. ウリゾーンの補題より、$X^*$ は正規空間であるから完全正則である。
5. 完全正則性の定義において、連続関数 $f: X^* \to [0, 1]$ の $X$ への制限は $X$ 上の連続関数である。
6. $X$ の閉集合 $F$ と点 $x \notin F$ に対し、$F \cup \{\infty\}$ は $X^*$ の閉集合である。
7. $X^*$ の完全正則性より、$x$ と $F \cup \{\infty\}$ を分離する関数 $f: X^* \to [0, 1]$ が存在し、その制限により $X$ での分離が実現される。
■
4. 一様構造の厳密な定式化と擬距離による再構成
一様構造は、距離空間の「一様連続性」や「完備性」を抽象化した構造である。ブルバキの近縁フィルターによる定義を採用する。
定義 4.1(一様構造)
集合 $X$ 上の
一様構造 $\mathcal{U}$ とは、$X \times X$ 上のフィルターであって以下の公理を満たすものをいう。
- 任意の $V \in \mathcal{U}$ に対し、$\Delta = \{ (x,x) \mid x \in X \} \subseteq V$。
- $V \in \mathcal{U} \implies V^{-1} = \{ (y,x) \mid (x,y) \in V \} \in \mathcal{U}$。
- 任意の $V \in \mathcal{U}$ に対し、ある $W \in \mathcal{U}$ が存在して $W \circ W \subseteq V$。
ここで $W \circ W = \{ (x,z) \mid \exists y \in X \text{ s.t. } (x,y) \in W, (y,z) \in W \}$ である。
定理 4.2(擬距離による一様構造の生成)
$X$ 上の擬距離の族 $\mathcal{P}$ に対し、
$$ V_{p, \epsilon} = \{ (x, y) \mid p(x, y) < \epsilon \} \quad (p \in \mathcal{P}, \epsilon > 0) $$
を準基(有限交差が基底となる)とするフィルターは、一様構造を定める。
5. 微細一様構造の構成と連続関数の一様連続性
完全正則空間において、その位相と両立する最も細かい一様構造を構成する。
定義 5.1(微細一様構造 $\mathcal{U}_F$)
完全正則空間 $(X, \tau)$ において、$\tau \times \tau$ に関して連続なすべての擬距離の族 $\mathcal{P}_{all}$ から生成される一様構造を微細一様構造と呼ぶ。
定理 5.2(連続関数の絶対的一様連続性)
完全正則空間 $(X, \tau)$ において、任意の連続関数 $f: X \to \mathbb{R}$ は、微細一様構造 $\mathcal{U}_F$ に関して一様連続である。
証明
$f$ が一様連続であることを示すには、任意の $\epsilon > 0$ に対し、近縁 $V \in \mathcal{U}_F$ が存在して、$(x, y) \in V \implies |f(x) - f(y)| < \epsilon$ となることを示せばよい。
1. $p_f(x, y) = |f(x) - f(y)|$ を定義する。
2. $f$ が連続であるため、$p_f$ は連続な擬距離である。
3. 微細一様構造の定義により、$\mathcal{P}_{all}$ は $p_f$ を含んでいる。
4. よって $V = \{ (x, y) \mid p_f(x, y) < \epsilon \}$ は $\mathcal{U}_F$ の近縁である。
5. この $V$ を用いれば、$(x, y) \in V \implies |f(x) - f(y)| < \epsilon$ は定義から自明である。
■
6. 完備性の理論:コーシーフィルターと収束の議論
点列の収束の限界を克服するため、一様空間における完備性はフィルターの言語で記述される。
定義 6.1(コーシーフィルター)
一様空間 $(X, \mathcal{U})$ 上のフィルター $\mathcal{F}$ がコーシーフィルターであるとは、
任意の近縁 $V \in \mathcal{U}$ に対して、ある $F \in \mathcal{F}$ が存在して $F \times F \subseteq V$ を満たすことをいう。
定義 6.2(完備一様空間)
一様空間 $X$ が完備であるとは、すべてのコーシーフィルターが $X$ のある点に収束することをいう。
7. コンパクト空間における一様構造の一意性と完備性の完全証明
コンパクト空間においては、位相構造がそのまま一様構造の性質を強く支配する。
定理 7.1(コンパクト一様空間の完備性)
一様空間 $(X, \mathcal{U})$ の位相 $\tau$ がコンパクトであれば、$(X, \mathcal{U})$ は完備である。
証明
$\mathcal{F}$ を $X$ 上のコーシーフィルターとする。
1. 空間がコンパクトであるため、$X$ 上の任意のフィルター $\mathcal{F}$ は少なくとも一つの集積点 $x$ を持つ。
2. 集積点の定義より、$x$ の任意の近傍 $N$ に対して、任意の $F \in \mathcal{F}$ は $N \cap F \neq \emptyset$ を満たす。
3. $\mathcal{F}$ が $x$ に収束することを示す。すなわち、任意の近縁 $V \in \mathcal{U}$ に対して $V(x) \in \mathcal{F}$ を示せばよい。
4. 近縁の公理より、ある対称な近縁 $W$ ($W=W^{-1}$) が存在して $W \circ W \subseteq V$ を満たす。
5. $\mathcal{F}$ はコーシーフィルターなので、ある $F_0 \in \mathcal{F}$ が存在して $F_0 \times F_0 \subseteq W$ となる。
6. $x$ は集積点なので、$W(x) \cap F_0 \neq \emptyset$。よってある $y \in F_0$ が存在して $(x, y) \in W$。対称性より $(y, x) \in W$。
7. 任意の $z \in F_0$ をとる。$(z, y) \in F_0 \times F_0 \subseteq W$ である。
8. $(z, y) \in W$ かつ $(y, x) \in W$ より、$(z, x) \in W \circ W \subseteq V$。
9. すなわち $z \in V(x)$ である。よって $F_0 \subseteq V(x)$。
10. $F_0 \in \mathcal{F}$ なので、フィルターの定義より $V(x) \in \mathcal{F}$。
ゆえに $\mathcal{F} \to x$。
■
定理 7.2(一様構造の一意性)
コンパクトHausdorff空間 $X$ において、その位相を誘導する一様構造 $\mathcal{U}$ は唯一つしか存在せず、それは $\Delta$ のすべての開近傍からなる族である。
証明
$\mathcal{U}$ を $X$ の位相を誘導する任意の一様構造、$\mathcal{U}_C$ を $\Delta$ の開近傍フィルターとする。
1. $\mathcal{U} \subseteq \mathcal{U}_C$ の証明
$V \in \mathcal{U}$ とすると、ある開近縁 $V^\circ \in \mathcal{U}$ が存在して $\Delta \subseteq V^\circ \subseteq V$ となる(一様空間の基本性質)。$V^\circ$ は $\Delta$ の開近傍なので $V \in \mathcal{U}_C$。
2. $\mathcal{U}_C \subseteq \mathcal{U}$ の証明
$W$ を $\Delta$ の開近傍とする。任意の $x \in X$ に対し、$(x,x) \in W$ であり $W$ は開集合なので、ある開近傍 $N_x$ が存在して $N_x \times N_x \subseteq W$ となる。
一様構造 $\mathcal{U}$ が位相を誘導することから、ある対称な近縁 $V_x \in \mathcal{U}$ が存在して $V_x(x) \subseteq N_x$。さらに $U_x \circ U_x \subseteq V_x$ となる対称な近縁 $U_x \in \mathcal{U}$ をとる。
$X$ のコンパクト性より、被覆 $\{U_x(x) \mid x \in X\}$ から有限部分被覆 $\{U_{x_i}(x_i) \mid i=1, \dots, n\}$ を選べる。
$U = \bigcap U_{x_i} \in \mathcal{U}$ とおき、$U \subseteq W$ を示す。
任意の $(y, z) \in U$ をとる。ある $i$ で $y \in U_{x_i}(x_i)$。よって $(x_i, y) \in U_{x_i}$。
また $(y, z) \in U \subseteq U_{x_i}$。よって $(x_i, z) \in U_{x_i} \circ U_{x_i} \subseteq V_{x_i}$。
したがって $y, z \in V_{x_i}(x_i) \subseteq N_{x_i}$。ゆえに $(y, z) \in N_{x_i} \times N_{x_i} \subseteq W$。
これより $W \in \mathcal{U}$。
■
8. 距離化可能定理:可算基底から距離を構成する全行程
一様空間が「距離化可能」であるための条件は、その近縁フィルターが可算な基底を持つことである。この証明には、擬距離を段階的に合成する技術が必要である。
補題 8.1(メトリゼーション・レンマ)
一様空間 $X$ の基本近縁系として可算な $\{V_n\}_{n \in \mathbb{N}}$ で、
$$ V_0 = X \times X, \quad V_{n+1} \circ V_{n+1} \circ V_{n+1} \subseteq V_n, \quad V_n = V_n^{-1} $$
を満たすものが存在すれば、$X$ は距離化可能である。
証明
各 $V_n$ に対して、$f(x, y)$ を次のように定義する。
$$ f(x, y) = \begin{cases} 2^{-n} & (x, y) \in V_{n-1} \setminus V_n \\ 0 & (x, y) \in \bigcap V_n \end{cases} $$
この $f$ は対称であるが、三角不等式を満たさない。そこで、任意の点列による「鎖」の長さの最小値として距離 $d$ を定義する。
$$ d(x, y) = \inf \left\{ \sum_{i=0}^{k-1} f(z_i, z_{i+1}) \mid z_0 = x, z_k = y, z_i \in X \right\} $$
この $d$ は三角不等式を明らかに満たす。
重要なのは $d$ が一様構造を誘導することの証明である。
主張: $\frac{1}{2} f(x, y) \le d(x, y) \le f(x, y)$
(この左側の不等式の証明には、鎖の長さに関する帰納法を用いる。$V_{n+1}^3 \subseteq V_n$ という条件が、細切れの鎖を結合しても長さを一定以下に抑えることを保証する。)
この不等式により、$d(x, y) < 2^{-(n+1)}$ ならば $f(x, y) < 2^{-n}$、すなわち $(x, y) \in V_n$ が従い、距離が一様構造と両立することが示される。
■
9. ウリゾーンの距離化定理:正規性と第二可算性の結実
最後に、位相空間論における最も有名な定理の一つを、これまでの道具(特に完全正則性と一様構造)を用いて証明する。
定理 9.1(Urysohn's Metrization Theorem)
第二可算な正規空間 $X$ は距離化可能である。
証明
1. 基底の可算性: $X$ の開基 $\{B_n\}_{n \in \mathbb{N}}$ をとる。
2. 正規性による関数の抽出: $\overline{B_n} \subseteq B_m$ となるペア $(n, m)$ すべてに対し、ウリゾーンの補題より $f_{n,m}: X \to [0, 1]$ を $f_{n,m}(\overline{B_n})=0, f_{n,m}(X \setminus B_m)=1$ となるようにとる。この関数の族 $\{f_k\}_{k \in \mathbb{N}}$ は可算個である。
3. 一様構造の構成: 各 $f_k$ に対して、連続な擬距離 $p_k(x, y) = |f_k(x) - f_k(y)|$ を定義する。
4. 基本近縁系の可算性: $\mathcal{U}$ を $p_k$ の有限族から生成される一様構造とする。基本近縁系は $V(k, \epsilon) = \{ (x, y) \mid \sum_{j=1}^k \frac{1}{2^j} p_j(x, y) < \epsilon \}$ の形となり、これは可算基底を持つ。
5. 位相の不変性: この一様構造が元の位相 $\tau$ を誘導することを示す。
(i) $p_k$ は連続なので、一様位相は $\tau$ より粗い。
(ii) 逆に $x \in U \in \tau$ に対し、第二可算性と正規性よりある $k$ が存在して $x \in \overline{B_n} \subseteq B_m \subseteq U$。このとき $f_k$ が $x$ と $X \setminus U$ を分離するので、$x$ の一様近傍はある $\epsilon$ で $U$ に含まれる。
6. 距離化可能補題の適用: 一様構造が可算基底を持ち、$T_0$($X$ が Hausdorff なので $\cap V_n = \Delta$)であれば、補題 8.1 により距離化可能である。
■